当事者目線の障害福祉推進条例(案)について質問しました
7月12日の厚生常任委員会で、標記の条例素案が報告され質問しました。
県は現在、「当事者目線の障害福祉推進条例」を策定する取り組を進め、条例骨子案を示し、パブリックコメントや関係団体の皆さんと意見交換を行ってきました。パブリックコメントの結果は報告されましたが、パブコメの主な意見の一つ一つに対する県の考え方がまだ示されていない段階で、条例素案が報告されました。県は9月議会に条例を提案するとしています。素案を読んでみて、いくつかの問題について、質疑をしました。以下は要旨です。(→は答弁要旨です)
●前文についてです
前文を要約させていただくと、県は、6年前あの津久井やまゆり園において19名の命が奪われるという大変痛ましい事件が発生し、その後、園の再生を進める過程において、より良い支援のあり方を模索する中で、本人の意思を尊重し、本人が望む支援を行うためには、当事者目線に立たなくてはならないことに気づいた。障害者一人一人の心の声に耳を傾け、支援者や周りの人が工夫することが障害者に関わる人々の喜びにつながり、その実践こそがお互いの心が輝く当事者目線の障害福祉であるとの考えに至った。
国際障害者年を転機にノーマライゼーションの理念の下、環境整備を進めてきたがまだ、すべての障害者が自分らしく暮らしていくことができる社会環境の整備は道半ばである。
私たちは誰もが安心して生き生きと暮らすことができる地域社会の実現を目指し障害者も含めた県民、事業者、行政などが連携し一体となった取り組みを進めるべく、普遍的なしくみを構築していかなければならない。このような認識の下、当事者目線の障害福祉の推進が「共に生きる社会神奈川憲章」の実現につながるものと確認し、その基本となる理念や原則を明らかにした、当事者目線の障害福祉を進めていくための基本的な規範としてこの条例を制定するとしています
条例の前文とは、条例の制定の理念を強く宣言する場合に置かれるもの。制定の由来・経緯とその基本原理を謳うものと考える。
まず、障害者の人権や基本的自由を守るための国際的な約束であり、日本も批准している障害者権利条約の理念に触れることや、障害者差別解消法の理念が前文に謳われるべきと考えるが伺う。
→障害者権利条約の理念については、素案第3の「基本理念」において、個人の尊厳、個人の自律、可能性の尊重という風に障害者権利条約の基本的な精神を盛り込んでいる。差別解消法についても素案第1の「目的」中で「障害者が障害を理由とする差別および虐待を受けることなく、地域共生社会の実現に資する」という風に盛り込んでいるので前文での記載は考えていない
要望する
津久井やまゆり園のあの痛ましい事件をきっかけにして、当事者目線の障害福祉を進めようと、条例を制定しようとなってきた動きを私は十分理解しているつもりだが、その前から障害者権利条約や差別解消法が整備されてきてその理念が示されてきた。前文にはその理念を、盛り込むことを要望する。
●次に第4の「障害を理由とする差別、虐待などの禁止」について伺う。
「障害を理由とする差別、虐待その他の個人としての尊厳を害する行為をすることにより、当事者目線の障害福祉の増進を妨げてはならない」としているが、これでは、「行為を禁止する」ことになっていない。回りくどくて何を禁止するのかよくわからない。端的に「尊厳を害する行為を禁止する」とすべきではないか。
→障害を理由とする差別については障害者基本法で、虐待の禁止については障害者虐待防止法により規定されているので、当然の前提として差別、虐待の禁止があるということ。こうした前提がある中で、当事者目線の障害福祉の増進を妨げてはならないとして改めて記載した。
要望する
尊厳を害する行為をすることにより、当事者目線の障害福祉の増進を妨げて
はならないという表現が抽象的すぎて理解に苦しむところ。今言われたようなことをもっと端的に表現してほしい。
●次に、14、「障害を理由とする差別に関する相談、助言などについ伺う。
「県は障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、相談体制その他必要な体制の整備に努めるものとする」と努力規定であるが、「障害者差別解消法14条には、必要な体制の整備を図るものとする」とある。努力規定では弱い。法の趣旨に照らすならば「少なくても整備を図るものとする」にすべきと考えるが伺う。
→相談、助言などの体制については、現在も県に相談窓口を設けて実施している。今後、紛争の防止、解決の体制整備は改めて検討していくところであり、努力規定とした。
−2)障害者差別解消法の14条は、必要な体制の「整備を図るものとする」とあり、それが県の条例になると「整備に努めるものとする」となるのは、後退する印象がどうしてもいがめない。法律に準拠した条文にすることについて伺う。
→今後、取り組んでいく体制整備をしていくにあたっては、人、財源といった不確定な調整をしていくというところなので、努力規定とした。
要望する
良い条例にしていきたいし、前向きに検討していただきたいという思いで発言している。是非、真摯に受け止めてもらいたい。
●次に「社会的障壁の除去」について伺う。
「社会的障壁の除去について、その実施に伴う負担が過重でないときは、合理的な配慮を行うよう努めるものとする」とある。
障害者差別解消法第7条第2項には「社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」と義務規定になっている。「努めるものとする」ではなく「しなければならない」にすべきではないか伺う。
→本条例素案では「意思の表明がない場合においても合理的配慮を行うことを規定しており、法より踏み込んだ規定になっている。当事者目線の障害福祉の推進にきちんとつながる規定と考えており、取り組むべきことでプラスアルファの部分を記載している。
●18「障害福祉の政策立案過程への障害者の参加」について伺う。
障害者の参加とはどのような形態を考えているのか。「私たちのことを私たち抜きに決めないで」というのが権利条約の理念の一つでもある。今回の条例を作るときから参加が求められると考えるが伺う。「参加」ではなく「参画」にしてほしいという意見もある。先の委員会では、障害当事者に策定過程に参画していただくものについて検討していきたいとの答弁がありました。どのように検討したのか伺う。
→昨年の9月議会以降、障害当事者との対話を重ね、関係者との対話を重ね、関係団体や他市町村と意見交換をしながら検討を進めてきた。
「参画」という文言は、計画の相談に加わるといったような対象を狭めてしまうこともあり、「参加」が適当と考えた条例で示すとなる。
●7、「財政上の措置」について伺う
「当事者目線の障害福祉の推進に関する施策」を実施するために、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする」と努力規定になっている。この条例にもとづき、当事者の皆さんの意思をしっかり尊重してどこで誰と住まうか、どのように暮らすかについて、基盤整備がまだまだ足りない。例えば重度障害の方が地域のグループホームで暮らすには、行動支援や様々なメニューが必要であり、人材の確保が必要になるが果たしてどこまであるのか。財政の措置が欠かせない。少なくても、県の姿勢として「財政上の措置を講ずる」と義務規定にすべきではないか。
→具体的な施策の策定および実施に取り組んでいく中で、必要な措置については、当然必要なものなので、個別に検討、調整をしていく必要があると考える。こうした考えを条例で示すとなると、努力規定での規定が適切であると考える。
要望する
全国では令和2年4月1日現在で、35自治体がこのような条例を策定している。千葉県が一番先に作った県だが、「必要な財政上の措置を講ずるものとする」としている。神奈川県が知事を先頭にこの条例を作ろうと進めてきているのだから「財政上の措置を講じる」とする姿勢をしっかり持っていただきたい。
●素案に対するパブコメの実施と制定先にありきでなく十分な議論をすることについて伺う
条例骨子案についてのパブコメの結果について、「提出意見に対する県の考
え方」がまだ報告されていない段階で、条例素案が出てきている。少なくても同時に示されれば、委員会でもっと十分に質疑できると思う。また、この素案についてもパブコメを実施してほしいという意見も県民からあったと思います。
素案に対するパブコメの実施について考え方を伺う。拙速に制定先にありきではなく丁寧な進め方をしてほしいと思うが見解を伺う。
→昨年度から障がい当事者や関係団体、市町村と意見交換を重ねてきたところ、骨子案から条例素案の作成に向けて、約60の関係団体と複数回にわたって意見交換をしてきて、そういった意見を踏まえて今回素案を作成した。
骨子案でパブコメを行なったので、素案では考えていない。常時、条例内容や施策についての意見受けている。意見は引き続き受けて、反映できるものは反映したいと考えている。今後もひき続き、ご意見を伺いながら、条例化に向けて丁寧に進めていく予定である。
最後に
こうしたやり取りを行いました。前文で掲げたことを推進するには、財政上の措置を講じることや、差別の禁止も社会的障壁の除去も法律と同等に義務規定にすべきと考えるし、参加と参画を位置づけていくことが必要と考えます。県はこれからも意見を聞きながら丁寧に進めるとしていますが、そうであるなら、十分な議論をする期間をおくべきと考えます。
15日に意見発表を行いましたが次回に掲載したいと思います。