このまちレポート

釧路市の中小企業基本条例と生活保護自立支援プログラムを学びました

2010年10月28日

視察2日目釧路市の報告です。 釧路市の中小企業基本条例はH21年4月1日に施行されました。

釧路市の条例の特徴は、基本理念の中に「産消協働」の考え方をとりいれたことです。「産消協働」には3本柱があり、ひとつは、「域内サービスを地域内でまわすことで域内循環性をたかめる」ことです。余りにも域外への財の流出が激しいためにこれを数%でも域内に向けることにより地域の経済的な体力が向上することをめざしたということです。ふたつめが域内循環を高める一方で、さらに域外からの財の獲得を目指していくことも重要である。3つめが中小企業間の連携、中小企業と市民の連携、行政との連携を図りながら進める「域内連携」です。

この条例の前文が、とても長いのですが、すばらしい。この条例に対する中小企業者、市民のみなさんのまちに対する思いを熱くぶつける議論を交わしてつくりあげたとのことです。まちの活性化を願い、次世代へつなぐ発展をねがうものであることがよくわかります。

条例前文は、冒頭、釧路を開拓した先人の紹介とその後の「幾多の先人たちが重ねた苦労を礎とし、都市規模を拡大し、様々な産業を根付かせまちに灯りをともしてきた」と釧路市のなりたちの歴史からはじまっています。続いて、中小企業の役割と市民の立場が書かれた中文に続き、むすびに、「域内経済の状況に等しく影響を受ける企業と市民と行政が、地元への愛着と郷土への誇りを胸に、地域経済活性化の格である中小企業の振興のための役割を分担しつつ様々に連携し、その結果として財とサービスを生み、域内に循環させるとともに、域外からの財を獲得し、高齢者が安心してくらせ、若者が挑戦する機会に満ちたまちになるよう、釧路市がひとつになって、先人の築いた礎に我々と我々の子孫の努力をさらに重ねながら釧路市を幾世代にもわたって引き継ぎ、発展させるべく、基本的な理念と方向性を示すため、この条例を制定する」と結んでいます。

条例の9条に「地域経済円卓会議」をいちづけていることもすばらしいと思いました。条例が条例だけに終わらないよう、具体的な経済施策を考えるしくみが必要であることからつくったとのことですが、制定後に「円卓会議ネットワークシステム」作りを行なったとのことでした。関心をもったのは、街づくり、水道・下水道、農業、環境問題、福祉や教育など市民からの問題提起や要求は様々であるが、所管するエリアが多方面にわたる問題も多く、結局解決がなかなかされないことも多い。そこで役所の中でのまちづくり、福祉や教育、環境などの分野はみな地域経済の活動につながると、こうした役所内の部署と「市役所円卓会議ワーキング部会」を作り「各部調整会議」や「テーマ別会議」の適宜開催をはかったこと、公共事業の受注は市内業者へ。分割してでも市内業者に発注する。そのほか、「域内循環検討円卓会議」ではポイントカードの活用による域内循環の方法を検討しているとのことでした。これをやるとエコに貢献するとかのバックストーリーづくりも行なウことも検討中とのことでした。市民との協力、連携がポイントであり、市民が地元の中小企業をそだてることが貫かれている条例だと思いました。

また「若者自立支援円卓会議」を設置し、福祉、教育、経済界等がニート・引きこもり等への地域全体でのとりくみを幅広の立場で検討しているとのことでした。

担当である産業路成課長さんの、中小企業基本条例に取り組む熱い思いや姿勢に大変感銘をうけその内容はとても勉強になりました。

<生活保護の自立支援事業の取り組みについて

生活保護受給世帯が、釧路市でも増加の一途で、20人にひとりが受給している中で、国の制度ではすまなくなり、お金の給付だけではすまされない支援を必要とし、多用な自立支援プログラムをつくって、自立を促進しています。生活保護世帯の人たちが、元気で希望をもって生きることを支援することで自立に向かう、当事者自信が力をつけることで自立に向かうという考え方のもとで実施する釧路市の生活保護行政の具体的内容を勉強しました。テレビでも放映され注目されている自立支援プログラムです。

自立=就労ではなく、稼動収入から無償奉仕まで中間的就労をプログラムに盛り込み、実に丁寧な、受給者の立場に立った多様な支援を行い、そのことが就労に結びついていくというプロセスがしっかり組まれていることに感動しました

釧路市は離婚率が大変高く、母子世帯の保護世帯が大変多いということから、実態調査を実施したところ、・友達や社会的なつながりが希薄 ・移動手段と保育体制をもっていない ・土日が休みでない職場で働いていることが多い ・こどもの勉強部屋も無く、狭い部屋で生活し教育環境が悪い ・子どもに長欠児がおおいなどが浮き彫りになったとのことです。こうした実態に対し、すぐに就労と言うことでなく、例えば介護事業所に依頼し、ヘルパーさんの後ろについて、高齢者の話し相手をしてみたら楽しかった、自信を持つことができ、ヘルパーの資格をとりたくなった。重度障がい者介護施設でボランティアをしたら、喜ばれてうれしかったなどという経験が生まれたことから、対象を拡大し、さまざまな活動を組んでいきました。

いろいろな人と話をすることで社会的なスキルをつけることから始める「日常生活意欲向上支援プログラム」と「社会奉仕きっかけづくりプログラム」続いて、「就業体験的ボランティアプログラム」として介護ヘルパー同行ボランティア体験事業、公園管理ボランティア体験事業、介護施設・デイサービスボランティア体験事業など創意と知恵を使った内容です。続いて「就業体験プログラム」として知的障がい者や精神障がい者の授産施設における作業や、阿寒湖園における農作業体験プログラムが組まれています。

こうした体験の中で生活のリズムを取り戻し、ボランティアをして働く意欲がわいた。草取りをやって喜ばれて充実した気持ちが生まれたなどから次のプログラムに移行できるようになるとのことです。

こうした支援事業は介護事業所、NPO法人、介護福祉施設、教育訓練機関等に委託して実施しているとのことです。

生活保護世帯のこどもたちが進学できず、貧困の連鎖から抜け出せないことも課題でした。NPO法人と連携し「高校進学希望者への学習支援プログラム」をつくり、勉強を支援しました。子どもたちへのインタビューを映像でみましたが、子どもたちは自分の居場所ができた。一人の人間として認められてうれしかった。ここでは出来ない子を伸ばしてくれる。勉強も出来るようになり、家でもやるようになった。日々の生活で楽しいことを感じ取れるようになった。あかるくなって触れ合う人が増えた。いろんな自分を見つけることが出来た。大人と話せるようになった。自分とちがうタイプがいることがわかった。親との話題が増えた。などこもごもにかたっていました。

担当の所長さんは、誰もが自分の存在価値をみとめられたいと思っている。就職活動のつらさは自分を否定されるとかんじることであり、そうしたことが精神を病むことにつながってしまう。こうした自立支援プログラムのなかで意欲を取り戻した人は、今は精神的にも解放され「生きている」と感じることができると語っている。

「希望をもって生きるようになろう」という行政のあたたかく強い意欲を感じ、とても参考になりました。川崎でもこうした取り組みが求められます。