現行の保育制度は、①児童福祉法第24条1項に基づく国と市町村の保育実施義務、②保育所最低基準の遵守、③保育料は所得に応じた応能負担,この3つの福祉の柱がすわったものです。
今、待機児童が増大しているのは,国が、公立保育園の施設整備への国庫負担金を廃止するなど、認可保育園の建設を縮小してきたからです。待機児童の発生は現行制度に問題があるのでなく、必要な財源を確保せず保育所を十分整備してこなかった国や自治体の制度の運用に問題があると思います。そこをすりかえて、待機児解消のためという大義名分のもと、現行制度①、②、③を根本から変え、保育を成長戦略として市場化しようとする「こども子育て新システム」が導入されようとしています。
6月16日に制度設計を議論してきた厚労省の作業部会が中間とりまとめ案を示しました。幼保一体化を看板としていましたが,幼稚園側の強い反発があり,幼稚園、保育所(0歳から2歳児)、総合施設を並存させ、名前はすべて「こども園」とするわかりにくい仕組みが作られようとしています。
こども子育て新システムが導入されれば、「第2期川崎市保育基本計画」もそれに添って進められる大問題です。新システムで安心して子育てができる川崎になるでしょうか。現到達点で基本問題がどう検討されているか質問しました。
以下,●質問と ○こども本部長の答弁(要旨)、▲私のコメントです。
●市町村の保育実施義務と役割どうなる?
○「新システムの実施主体をにない事業にかかる費用の給付、計画的な提供体制の確保や基盤整備等が想定されている」と答弁。
●現行制度では、国、自治体が保障している保育所運営費及び私立保育所の建設費は国が2分の1、市町村が4分の1、事業者4分の1の割合の負担ですが新システムでどうなるのか?
○「(仮称)こども園給付のなかで人件費、事業費、管理費等に相当する費用を算定するとされている。保育所整備費はまだ明らかにされていないが、(仮称)こども園給付の中で,施設の減価償却費に相当する費用について算定するとしている。国、市町村,及び事業者の費用負担は今後検討するとされている」と答弁。
▲(仮称)こども園給付は、利用者の一部負担がともなうもので、 介護保険制度のように、こども園が代わりに報酬として受領する「代理受領方式」をとるとのことです。運営費補助はなくなり、しかも利用者の一部負担割合がどうなるのかも定かではありません。ことによれば,3割〜4割の利用者負担になる可能性もあるのではないでしょうか。
保育料は応能負担から、応益負担になり、市町村が決める保育の必要度(認定時間)を超えて保育を受ければ,全額自己負担となってしまう。しかも、現行の保育所では徴収しない入園料、教材費等の徴収が認められるなど、親の経済力により受ける保育の格差がうまれることも問題です。
● 市町村から「保育の必要度」が認定されても、保育所、総合施設が不足していては,待機児童がうまれます。現行では、待機児解消は、保育の実施義務のある市町村の責任のもと大きな課題ですが、新システムでは待機児解消に市町村がどのような責任をもつのか?
○ 「市町村の関与の仕組みは、計画的な基盤整備により,保育需要が供給を上回る状態を解消していく取り組みを進める。併せて,市町村が施設入所の利用調整を行い,利用可能な施設・事業者をあっせんすることとするとされている」と答弁。
● 利用調整とあっせんだけということでは、行政の責任は大きく後退する。それで市町村が待機児童の人数を把握できるのか?
● 入所については,こども園との直接契約になり,入所決定は施設が行います。発達に障がいのあるお子さんや福祉要件が高いお子さん等の受け入れが保障されるのか? 市町村がどうかかわるのか?
○ 「待機児童の定義は現段階では明らかにされていない。特別な支援が必要なこどもについては,保育の必要度の認定と併せて,優先利用の対象として、利用可能な施設をあっせんするとされている」と答弁。
▲ 市町村の保育実施義務がなくなり,直接契約になる新システ ムのもとでは「待機児童」という概念自体がなくなるということではないでしょうか。
▲ 総合施設等の施設には、正当な理由がない限り入所申し込みを拒否してはならない「応諾義務」が課せられるので,問題はないといわれていますが、定員に空きがないほか、スタッフが足りず対応できないことなども「正当な理由」になるとされており、どれだけ実効性があるのか疑問です。紹介、あっせんする程度のもので市町村の責任で入所が保障される訳ではありません。ましてや,市町村が応諾義務を根拠に保護者との契約の締結を強制すること等不可能ではないでしょうか。市町村の保育実施義務が法律に明記されている意味は大きい!のです。
保育所最低基準について
1948年に、これ以上下回ってはならないと定められた最低基準は,改善への努力義務が課せられていたにもかかわらず,国は改善を遅らせてきたために施設面積でも職員配置でも他の先進諸国と比べて大きく立ち遅れた水準にとどまってきました。現行でも低い基準なのに,待機児童が多い自治体は独自で条例化して緩和しても良いとされ,さらに環境悪化が危惧されています。東京都では、都の依頼を受けて引き下げを検討してきた都児童福祉審議会・専門部会に参加した東京都特別区区長会の代表が「面積基準の緩和はこどもにしわ寄せがいく施策」「こどもの福祉を最優先に考えると最低基準の緩和につながる文脈については納得ができない」と強く反対し、児童福祉審議会・専門部会は態度表明を断念したとのことです。
● 本市も現基準を守るべきだがどう考えるか?
● 地域主権改革法との関連で児童福祉審議会の審議がどうなっているのか? こどもの福祉,乳幼児の発達を保障することと、面積基準についての見解は?
○ 「地域主権改革に伴う基準の条例化については、今後示される国の政省令をもとに考え方を整理し,児童福祉審議会で審議いただく予定。面積基準については,保育の質の確保の観点から,児童福祉審議会で審議いただいた意見の内容もふまえ検討してまいりたい」と答弁。
▲ こども本部長は「保育の質の確保の観点から」と答弁しましたので、現行基準を守ると言うことだと受け止めます。市児童福祉審議会においても、新保育基本計画の議論のなかで、こどもの幸せ,こどもの視点に立って進めるべきと議論されています。本市は、認可保育所はもちろん,認可外施設も最低基準に準じていますから、せめて現行基準を守るべきことを強く求めるものです。
新システムは要保育度により,曜日や時間がまちまちになるので、一日の生活リズムに応じた保育ができなくなると言われています。日々の集団的な生活や遊びに根ざして発達を保障するという日本の保育や幼児教育の到達を大切にすべきです。こうした現場の意見,国民的な議論なしに拙速に進めるべきではありません。保育を必要とする誰もが安心してあずけ,働くことができ、人格の基礎がつくられる乳幼児期の発達保障が大切にされる保育制度にすることを強く求めるものです。