市長は公立保育園を民営化する理由について「公立は画一的、硬直的で、多様なニーズにこたえられないから、民営化を推進する」といわれましたが、この理由の正当性について、3月議会の代表質問では、国の補助金のしくみから質問しました。
●延長保育に対する国の補助金は民間保育所のみ対象です。
多様なニーズとは、延長保育や一時保育などですが、厚生労働省は、平成18年度より、延長保育に対する国庫補助金の対象を、民間保育所のみにしてしまいました。公立保育園の延長保育には一切国の補助金がでません。
一時保育については、国庫補助金対象の必要条件として「一時保育を行なうための一定のスペースの確保」が挙げられています。そのため、公立保育園はスペースを確保する余裕がほとんどないので、スペース確保が可能な民間保育園が担っています。
●建設費も運営費も国の補助金は民営保育園のみになりました。
そのうえ、国の政策で、新しい保育園を建設する費用や、保育園を運営する費用に対する国庫補助金は民間保育所のみが対象です。
国の政策が、財政的なしくみをとうして民営化を誘導しているのです。つまり、民営化は公立保育園が硬直的とか、画一的ということではなく、国の財政の仕組みから、夜8時までの延長保育や一時保育などの多様なニーズを、公立ではなく、民間に担わせてきたといえます。
● 児童福祉法に基づく施設として地域に存在してきました。
「保育の実施義務は市町村にある」という児童福祉法に基づき「公」の直営施設が存在し、民間保育所にも公私間格差の是正を行い、公・民がともに公的保育をになってきた川崎の保育の歴史があります。
行政が保育サービスの提供者として直接責任を負ってきたからこそ、保育所の整備がここまで進んできた経緯があります。
地域に公立保育所が存続し、一定の質を確保していくことで、公・民全体が切磋琢磨するインセンティブにもなってきました。
歴史的に果たしてきたその役割、蓄積されているノウハウ、地域との信頼関係は一朝一夕にゆらぐものではないとおもいます。
●2001年、児童福祉法が一部改正されました
2001年に、児童福祉法が一部改正され、まだ「公立及び社会福祉法人立を基盤としつつ」としながら、改正条文では、公立保育所は今後の設置・運営からはずされました。自治体の保育所整備の方向性を半ば、強制的に民営化路線に誘導・拘束する性格を持つものです。
こうした国の政策のもとで、公立は「コストが何千万も余計にかかる」というコスト第一主義と、公立は「硬直的な運営」との、一連の理由づけがされてきたということだと思います。
●保育の専門性に対する市の見解は・・・
今後の方向性として、健康福祉局長は「民間主体でもサービスの安全性・継続性・確実性・効率性が確保できるものにつきまして、民間活力を活用する」と答弁しました。保育の専門性について局長は、言及しませんでしたので、「専門性の確保も位置づけるべきだ」と質門しました。
それに対して局長は「保育所は公・民を問わず、保育を必要とする児童に適切な保育サービスを提供することが重要であり、保育士の配置が必要でございますので、引き続き、保育の質の向上に努めてまいりたいと考える」と答弁しました。
● 民営化で問われるもの
保育士という専門職種は、教師や看護師と同様に、一定の経験年数を通じた専門性の獲得と蓄積が必要です。専門性は長期にわたる経験・継続の中で培われ、年齢にかたよりのない職員集団を通じて継承されます。
「保育の質の向上に努める」と局長は答弁しましたが、専門性を保障しその継承と発展のためには、保育士として働き続けるための条件の確保が不可欠になってきます。
民営化にあたっては、経費削減が強く求められます。この経費削減と保育士が経験を積み重ねながら、専門性を獲得、蓄積していくことが、両立できるのかが問われているのです。
つまり、民間であっても、経験を積み重ねていけば人件費は増加する。経費削減を優先すると専門性の獲得が中断し,若い保育士に置き換えざるをえなくなるのではないでしょうか。
● 子育ても親育ても・・・
ある公立に預けているお母さんは「子どもが園に慣れない頃、わたしが泣いていたら先生が『大丈夫よ、必ず慣れるから』『もう少しの心棒よ』と励ましてくれた。」
「園で熱を出したとき先生が『お知らせだけだからね。お迎えに来て頂戴と言う電話ではないから、いつものお迎えでいいのよ』といってくれた。母親を励まし、親も育ててくれるそういう言葉をかけてくれるのは、やっぱり子育てと働くということがしっかりわかってくださるベテランの先生がいてくれるからだと思います」としみじみ言われました。
本当にそうだなと思います。経験や年齢のバランスよい職員集団の中で、専門性は継続されていくのだと思います。
こどもたちが育つ保育園が、コスト最優先では困ります。